記憶に新しい、富士山や富岡製糸工場の世界遺産登録。
なぜ世界遺産登録を目指す運動は止まないのでしょうか。
メリット・デメリットとともに、世界遺産登録を目指す意義を考察します。
世界遺産登録を目指す理由はズバリ…!
What(何を)
顕著な普遍的価値を持つ自然や建物を
How(どのように)
科学的方法や知識に従い
Why(なぜ)
保護していくため
登録を目指すのが本来の趣旨です。
Where(どこで)
世界遺産に登録された場所や周辺は
Why(なぜ)
観光需要の高まりも見込めるため
How(どのように)
観光業の増収増益といった
二次的効果への期待も含まれていると考えられます。
本来の目的は「保護」だが二次的効果への期待もゼロではない
世界遺産に登録する本来の目的は、顕著な普遍的価値を持つ遺産の保護です。
歴史的に特別な意味のある建物、かけがえのない美しい自然など、人々の豊かな心や平和に寄与する多くの遺産。
科学的な方法や知識を以ってそれらの破壊を阻止し、守っていくための称号なのです。
一方で、世界遺産というブランドは経済効果などのメリットも生みます。
観光地として繁盛する、二次的な効果を期待している面も否めないでしょう。
そもそも世界遺産とは?
世界遺産とは、顕著な普遍的価値を有する文化や自然を指します。
これを守るための条約が、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)で採択された「世界遺産条約」。
世界遺産条約が生まれたきっかけは、古代エジプト文明の遺跡“ヌビア遺跡”の保護でした。
ダム建設の影響で水没が懸念されていたヌビア遺跡を移築するため、救済キャンペーンを行い援助を呼びかけたのです。
この動きが世界遺産条約の礎となり、今では190を超える条約締約国が存在しています。
世界遺産の種類
世界遺産は有形の不動産が対象となります。
現在あるのは下記の3種類です。
・ 文化遺産
記念工作物、建造物群、遺跡などが対象です。
日本の文化遺産には、姫路城、厳島神社、富士山などがあります。
・自然遺産
自然の記念物や自然の区域などが対象です。
日本の自然遺産には、屋久島や白神山地、知床などがあります。
・複合遺産
文化遺産と自然遺産、両方の性質を持ったものが対象です。
現在日本には複合遺産に登録されているものはありません。
世界遺産登録までの流れ
条約締約国は自国の世界遺産候補リストを作成し、ユネスコに提出します。
このリストから有力となる候補を委員会に推薦。
文化遺産と自然遺産の各専門機関が、推薦された遺産を調査するのです。
調査結果をもとに世界遺産委員会が審議を行い、登録の可否が決定されます。
世界遺産とは|世界遺産運動|公益社団法人日本ユネスコ協会連盟(参照2019.5.27)
日本の世界遺産一覧 | nippon.com(参照2019.5.27)
世界遺産条約 | 外務省(参照2019.5.27)
世界遺産 | 文化庁(参照2019.5.27)
世界遺産に登録されるメリット
世界遺産への登録にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
まずは登録へのポテンシャルにも影響するメリットを見ていきましょう。
世界遺産という誇りが地元を活気づける
多くの国が活動に賛同する世界遺産登録。
そこに名を連ねることは、世界から価値があると認められた証と言えます。
地元の自然や建物が世界的名誉を得れば、自信や誇りに繋がりますね。
遺産を守っていくという意識が高まり、住民の団結や活気づけにもなるでしょう。
観光客の増加による経済効果
世界遺産に登録された遺産は、多数のメディアに取り上げられます。
これにより大きな宣伝効果を得られ、訪れる観光客の増加も見込めるでしょう。
来る人が増えるということは、そこでの消費も増えるということ。
経済効果への期待が大幅に高まるのです。
一方で世界遺産登録による経済効果は、登録された遺産にもよる、限定的な効果に止まるといった見方もあります。
周囲からの擁護・支援の期待
世界遺産への登録をキッカケに、その遺産に関心を寄せる人は多いのでは。
多くの人に興味を持ってもらえることで、遺産の保護運動に参加する人員が増える可能性も拡大します。
実は世界遺産に登録されたからといって、ユネスコから手厚い保護や補助金等があるわけではありません。
あくまでその遺産を残そうとする人たちがあって保護が実現しますから、賛同してくれる人を集めることも重要なのです。
世界遺産に登録されるデメリット
登録されるだけで意義があるように思える世界遺産。
現実には、直視しなければならないデメリットもあるのです。
自然破壊のリスクが高まる
経済効果にも直結する観光客の増加。
人が増えるとゴミの排出も多くなり、遺産やその周辺の環境悪化が懸念されます。
たくさんの人が訪れるとなれば、マナーやモラルも千差万別。
全国から注目され、外部の業者も介入してくると思われます。
コンビニや有料駐車場など観光のための施設が増えれば、本来の景観を損ねる恐れも。
景色とのバランスやその後の管理も熟考するほか、環境保全にも注力すべきでしょう。
地元民の生活に支障が出る懸念
観光に来る人が増えれば、道路や交通機関の混雑が予想されます。
地元住人の生活に支障をきたす恐れがあり、手放しで喜べない人が出てくることも。
ゴミ、騒音、マナーの面も同様に、地域の住民への迷惑が懸念される点です。
登録を誇らしく思う一方で、生活にどんな影響が起きるのかも想定しなくてはなりません。
管理のための財政確保や利用制限
登録された遺産には、国から保全の強化が求められます。
それに対応するためには、人員の確保や相応の費用が必要に。
土地の持ち主でも利用や変更に制限がかかるなど、これまでと違ったルールの中で保護していかなくてはなりません。
国をあげて守る対象になりますから、より一層厳しい規則が課せられるでしょう。
四国遍路 友の会「世界遺産に登録されるメリットとデメリット」[object Window](参照2019.5.27)
世界遺産 登録されたら利点あるが住民に迷惑がかかる例あり|NEWSポストセブン(参照2019.5.27)
ありがた迷惑な「世界遺産」登録 | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト(参照2019.5.27)
これからのあるべき世界遺産を考えよう
本来あるべき世界遺産の意義を全うするためには、問題点も含めて議論する必要があります。
これからの世界遺産をどう考えていけば良いのか、独自にまとめました。
メリットとデメリットを理解して登録に賛同する
良いことがあれば悪いこともある、世界遺産に限らず言えることですね。
名誉や誇り、経済効果などを生む一方で、環境破壊や地元への迷惑などデメリットも少なくありません。
世界遺産への登録を目指すためには、問題点への対応策もしっかり考えることが大前提となるでしょう。
価値ある状態をどう維持するかを考える
世界遺産に登録されたら終わり、ではありません。
条約の登録基準から外れると、登録を抹消されることもあるのです。
例えばかつての世界遺産に、ドイツのドレスデン・エルベ峡谷がありました。
渓谷にかかる橋の建設が開始され、景観が損なわれたことが抹消の理由とされています。
世界遺産と認められてからどう管理し、維持していくかも重要な課題なのです。
本来の目的を一人一人が理解する
冒頭でも述べたように、普遍的価値のある文化や自然を保護していくことが登録の大義です。
単なる観光地ではなく、人類共通の尊い遺産であることを十分に理解する必要があるのではないでしょうか。
世界遺産に観光へ訪れる際は相応のマナーを遵守するなど、一人一人ができることから保護に貢献しましょう。
人類共通の文化や自然を守るための世界遺産!そのためにできることから始めよう
本音として、世界遺産の登録に経済効果などを期待する想いがあるのも事実。
しかし、本来の世界遺産とは、守るべき人類共通の文化・自然であり、それを目的として登録に努めるものであると考えます。
二次的効果があるのは喜ばしいことですが、大前提として遺産をどう保護していくかに重きを置くべきでしょう。
そのために我々ができることは何か、改めて考えていきたいですね。
出典
ユネスコ(1972)「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約(仮訳)」(参照2019.5.27)PDF
世界遺産の本当の目的と未来に期待するもの | TRIPPING!(参照2019.5.27)
服藤「世界遺産登録による経済波及効果の分析」(参照2019.5.27)PDF
なぜ世界遺産登録にこだわる?その経済効果とは | 旅の杜(参照2019.5.27)
吉田(2008)「世界遺産の現状と課題」(参照2019.5.27)PDF